㊥カメラ担当係 "S" です。本日もご覧いただきありがとうございます。「コバはげ」レンズって、使い物にならないのかな?というご質問を頂戴したので試写してみました。まずもって「コバはげ」ってなんじゃい、というところからスタートしたほうがいいでしょうか。
「コバはげ」と言えば「シュナイダーの大判レンズ」が定番なので、まず登場してもらいましょう。
上の写真で言えば、緑色の数字辺りの内側に見えている、「黒白の細かい斑点」が「コバはげ」と言われる部分です。その内側の上のほう、白が強い斑点(Symmarの文字の辺り)も同様に、コバはげと呼ばれる部分です。
違う角度からもう1枚。この写真のほうがわかりやすいですかね。
レンズの銘板の内側、円周状のプツプツ部分が「コバはげ」といわれる所です。
元々(作られた最初)は真っ黒だったのですが、経年変化でこんな具合に劣化しております。
この「コバ」という言葉、レンズの端っこ(端面)のことを表していて、手近にあるもので言えば、眼鏡のレンズの端っこの「すりガラス」状になっている断面部分のことを示しています。
ただ、カメラ用のレンズではメガネのようにそのまま「すりガラス」というわけにはいかず、光が変な反射をおこさないように「黒色の塗料」が塗ってあります。実は、その塗料というのがびっくりで、その昔は墨(和墨)を塗っていたそうで、現在でも使われているそうです。
ただ、今では和墨だけではなく、専用の工業製品が開発され、光学用特殊塗料や硬化剤使用2液タイプ、水溶性の墨塗り材が使用されているようです。
以前にも書いたかもしれませんが、ニコンさんのタイ工場を見学した際、工場の生産ラインになんと「すずり」と「墨」と「筆」が置いてあるではありませんか!
もしやと思い、おもわず質問したところ、
「そりゃ、墨が一番ですよ。」
ってなご返答を頂戴したことがあります。
よーく考えると、墨って凄く安定した物質。
考古学の世界の「木簡の墨文字」、あるいは「古文書」など、墨で書かれたものは何年経過してもその黒さを維持していますから、素人ながら「変化の少ないいい素材」と感じちゃいます。
ただ、修理り屋さんに見せてもらった「分解後のコバはげ」レンズは、どれも墨ではなく「硬化系の塗料」が塗られたもの。塗りそのものは、しっかりとコバ部に密着しているのですが、密着面の内部で何らかの化学変化がおきているようです。なかには、外側部分にまで「ぷつぷつ」と変性が出てきているものも見た事がありますし、一概にこうとは言えないのですが、総じてそんな感じです。
いずれにせよ、業界では「コバはげ」という表現で定着しております。
ただ、人によっては「コバに塗った墨が落ちている」から「コバ落ち」だという方もおられますし、単に「コバに難」という表現も見受けられます。
念のため、この「コバ」という言葉をWEB検索してみますと、
皮の用語集に
コバ[こば] という言葉があるようで、次のように解説されています。
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コバとは、革端(切り口)のこと。重なった革端が木目の様に見えることから、「木端→コバ」と呼ばれるようになったと言われている。
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正確な語源にあたるのかどうかの確証はありませんが、革製品のほうが遥かに歴史が古いですから、この辺からやってきたのかもしれません。
しかしもって、なんで劣化するのでしょうかね。
中古カメラ店のスタッフの感覚としては、特定メーカーの特定レンズにその症状が現れていますので、保存環境というよりは「材料の選択」が原因のように思われます。ただ、同一レンズでも出る分とそうでない分に別れるケースもありますので、材料ロットに影響されるのか、まことに不思議な世界です。
総じていうなら、大判レンズによく見かける症状かと思いますが、時々35判のレンズでも散見されます。多くの場合、目をむいた前玉がごっついレンズ(例:Ai NIKKOR 35mm F1.4Sなど)に出ていることがおおいので、出ちゃうと目だって仕方がありません。
とにかく、見た目が悪く、いかにも「撮影に影響を及ぼすような欠点」と見えがちで、中古市場では確実に「欠点」として価格に反映されております。(通常品より安い)
が、ほんとのところ「撮影時の影響」はどうなのでしょうか?
そのあたり、次ページでご紹介したいと思います。